燃材料工学(核材料工学分野)

放射性物質と放射線の科学で, エネルギー・環境・医療の課題解決に挑む

放射性物質の化学と物理、そして放射線の計測・利用を基盤として、エネルギー、環境、医療にまたがる多様な課題の解決に取り組んでいます。対象は、原子力

利用に伴って生じる高レベル放射性廃棄物や福島第一原子力発電所の事故廃棄物・燃料デブリから、将来の高性能な原子燃料、さらには核医学や生命科学における診断・治療技術まで多岐にわたります。共通する学問的基盤は、放射性核種の化学状態、反応、移行、分離、計測を理解し、制御するための放射化学・物理化学です。

原子力の利用には、発電やエネルギー安定供給という恩恵だけでなく、放射性廃棄物の処分や事故炉の廃止措置といった、長期的かつ重い課題への責任ある対応が不可欠です。私たちは、深地層処分、燃料デブリの処理処分、将来の代替手法としての直接処分や、既存原発の廃炉に伴う廃棄物管理といったバックエンドの諸課題に対し、地道な基礎研究と実証的な工学研究の両面から取り組み、原子力の安全・安心な持続的活用を支える知の基盤を築いています。

一方で、放射線や放射性核種は、生命現象の可視化、疾患機構の解明、診断と治療の高度化にも大きな力を発揮します。私たちは、放射線イメージング、分光、量子センシング、放射性プローブを通じて、医療や生命科学への新しい貢献も切り拓いています。すなわち本研究室は、放射性物質と放射線を「制御すべき対象」としても、「積極的に活用すべき手段」としても捉え、その両面から持続可能で豊かな社会の実現を目指しています。

教員

佐々木 隆之 ( Takayuki SASAKI )

教授(工学研究科)

研究テーマ

廃棄物(高・低レベル放射性廃棄物や事故廃棄物)のより安全で効率的な処分を目指し、アクチノイド元素をはじめとする放射性核種の熱力学的特性に関する様々な研究を行なっています。また、深地層環境中での核種の移行挙動や化学状態を理解・予測するための実験的・理論的研究を進めています。

主な担当講義

核燃料サイクル工学1、放射化学、原子核工学序論、物理工学総論B

連絡先

桂キャンパス C3棟 d2S10室
E-mail: sasaki.takayuki.2a@* (スパム対策のためメールアドレスを省略しております。@の後にはkyoto-u.ac.jpを追加して下さい。)

http://www.nucleng.kyoto-u.ac.jp/people/Sasaki/index.html

淵上 剛志 ( Takeshi FUCHIGAMI )

教授(工学研究科)

研究テーマ

粒子線・電磁波などの放射線を基盤に、生体内の分子・細胞機能に着目し、核医学イメージングや分光法による可視化・解析と、α線・オージェ電子による内用放射線治療を融合することで、生命現象や疾患の解明・制御を目指しています。

主な担当講義

連絡先

桂キャンパス C3棟 d棟 d2S11室
E-mail: fuchigami.takeshi.6r@* (スパム対策のためメールアドレスを省略しております。@の後にはkyoto-u.ac.jpを追加して下さい。)

小林 大志 ( Taishi KOBAYASHI )

准教授(工学研究科)

研究テーマ

放射性廃棄物地層処分の安全性評価の向上を目指して、放射性核種やアクチニド元素の溶解度や錯生成反応等の溶液化学研究を行っています。

主な担当講義

材料物理化学、放射化学、原子核工学実験

連絡先

桂キャンパス C3棟 d2S12室
E-mail: kobayashi@* (スパム対策のためメールアドレスを省略しております。@の後にはnucleng.kyoto-u.ac.jpを追加して下さい。)

研究テーマ・開発紹介

原子力バックエンドと福島の廃炉を支える廃棄物処分工学

原子力の安全・安心な持続的活用のためには、発電の前面だけでなく、その後ろ側にあるバックエンド課題に真正面から向き合う必要があります。私たちは、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の地層処分、福島第一原子力発電所の廃炉に伴って取り出される燃料デブリや事故廃棄物の処理・処分、さらには将来の選択肢としての使用済燃料直接処分に関する研究を進めています。対象となるのは、アクチノイド元素や核分裂生成物の溶解・沈殿、錯形成、酸化還元、収着、コロイド生成、地下水中での移行挙動など、処分安全評価の根幹をなす物理化学現象です。

福島事故由来の廃棄物は、従来の再処理廃棄物とは性状が大きく異なり、特に燃料デブリが海水由来成分や構造材、コンクリート成分と複雑に混ざり合っている点に特徴があります。私たちは、模擬燃料デブリを用いた浸漬試験や溶出実験、処理水や二次廃棄物の性状理解、オフサイト土壌分析とオンサイト廃棄物評価をつなぐ研究を通じて、廃炉・処分に必要な科学的基盤を構築しています。あわせて、SPring-8 や KEK-PF などの大型放射光施設を活用した最先端分光・構造解析、地下環境を想定したフィールド・モデル研究も組み合わせることで、複雑な放射性物質挙動をより高精度に理解し、信頼性の高い処分概念へとつなげています。

先進原子燃料の創成に向けたナノ粒子燃料・熱力学設計研究

原子力の将来を支えるためには、より高性能で高信頼な新燃料の開発が重要です。私たちは、高燃焼度燃料で現れる高燃焼度組織(HBS)の特性に着目し、その利点を燃焼初期から活用する革新的概念として、ナノ粒子燃料の研究を進めています。ナノ粒子燃料は、ナノ結晶構造と微細な空隙構造を活かして、核分裂生成ガスの保持性、耐照射欠陥性、材料の変形応答などの向上が期待される先進燃料です。

この研究では、酸化ウランを中心とする酸化物・混合酸化物について、表面自由エネルギーを考慮した熱力学平衡状態図の構築を進め、粒径が相安定性や相境界に与える影響を理論的に明らかにします。さらに、酸化物ナノ粒子の調製、焼結体・混合酸化物の作製、X線回折、X線吸収分光、中性子小角散乱などを用いた粒径・相状態・局所構造の分析を通じて、理論と実験を往復しながら、先進原子燃料の設計原理を確立することを目指しています。SPring-8 や JRR-3 などの大型施設も活用し、ナノスケール構造と燃料特性の関係を解明することで、将来の高性能燃料開発に資する基盤を築いています。

粒子線・電磁波計測による生命現象の可視化と疾患機構の解明

生命現象は多様な生体分子の相互作用により制御されており、その破綻はがん、感染症、脳神経疾患、老化など様々な疾患の発症に関与します。近年、これらは慢性炎症や細胞老化といった共通の仕組みを介して関連していることが明らかになりつつあります。

本研究では、粒子線や電磁波を利用した放射線イメージングや分光・計測技術により、生体内で起こる分子の動きや細胞の状態をリアルタイムに可視化し、これまで観測が困難であった生命現象の理解を目指します。これまでに、神経受容体やアミロイドβ、感染分子、がん特異的分子を標的とした分子プローブを開発し、脳機能や炎症、細胞機能の解析に応用してきました。今後は、蛍光、ラマン分光、PET/SPECTなどの放射線・量子センシング技術を組み合わせ、生命現象や疾患に共通する過程を、時間と空間の両面から統合的に捉える手法の確立を目指します。

病態の診断・制御を一元的に行うことのできる新規量子核医工学技術の開発

難治性がんでは、血液検査、画像診断、治療でそれぞれ異なる原理や標的分子が用いられており、診断から制御までを一貫して行うことが難しいという課題があります。

本研究では、粒子線や電磁波を利用した放射線計測・イメージング技術を基盤として、ラマン分光、光音響、放射性プローブ、治療用核種を組み合わせることで、診断から制御までを一体的に実現する核医工学的手法の構築を目指します。特に、金属ナノ粒子を用いたラマン分光による血液情報の取得や、各種イメージング技術による体内状態の可視化に加え、X線や光照射に応答した局所的なエネルギー付与による機能制御を通じて、同一原理に基づく応用へと展開します。これまでに、がん特異的分子を標的とした分子設計や、放射線・光を用いた分子の可視化および機能制御に取り組んできました。今後は、α線、β線、オージェ電子など多様な放射線の特性と生体応答を解析し、高効率かつ低副作用な応用の実現を目指します。さらに、脳疾患や感染症に対しても同様のアプローチを展開し、核医工学に基づく新たな技術の創出を図ります。