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中性子工学分野

エックス線やガンマ線,中性子は、電荷を持たない放射線です.このため,物質の内部まで侵入したり,物質を透過することができます.このような性質を利用して,物質科学研究用の微視的プローブとして、物理、化学、医学より生命科学に至る広い分野において利用されています。

本研究室では、電荷を持たない放射線を測定する放射線検出器の開発,生命科学や新しい物質科学を拓く高輝度中性子源と量子計測デバイスの研究開発,,およびこれらを用いた先進イメージング法の研究を進めています。

教員

神野 郁夫 ( Ikuo KANNO )

神野 郁夫教授(工学研究科)

研究テーマ

低被曝X線診断を目指して,高機能放射線検出器開発と新規X線測定法の両面から研究を行っています.高機能放射線検出器研究では,化合物半導体の結晶育生から加工まで,また半導体同士の接合の研究も行っています.新規X線測定法としては,造影剤観測のためのエネルギー差分法の開発を行い,また,X線を電流として測定しX線エネルギー分布を得る,transXend検出器の開発し,実証中です.このような研究を医療・工業,基礎研究に応用したいと模索中です.

主な担当講義

放射線物理工学,原子炉物理学

連絡先

桂キャンパス C3棟 d2S07号室
TEL: 075-383-3911
FAX: 075-383-3911
E-mail: kanno@* (スパム対策のためメールアドレスを省略しております。@の後にはnucleng.kyoto-u.ac.jpを追加して下さい。)
http://www.nucleng.kyoto-u.ac.jp/People/Kanno/kanno.html

田崎 誠司 ( Seiji TASAKI )

田崎 誠司准教授(工学研究科)

研究テーマ

大型施設よりも安価かつ簡便に利用できる小型中性子源の有効な設計・利用方法を研究するとともに、中性子の示す波動性を利用して、

  1. 実験に使う中性子を効率よく導き・選別できるデバイスの設計・開発
  2. 物質に衝突させた際の中性子のわずかな速度変化から物質内部での大きな構造、ごくわずかな組成変化や動きを測る装置の開発

をおこなっています。

主な担当講義

統計力学、中性子理工学、中性子科学、量子制御工学

連絡先

TEL: 075-383-3912
FAX: 075-383-3912
E-mail: tasaki@* (スパム対策のためメールアドレスを省略しております。@の後にはnucleng.kyoto-u.ac.jpを追加して下さい。)

安部 豊 ( Yutaka ABE )

助教(工学研究科)

研究テーマ

高輝度冷中性子源開発のための基盤的研究と,さらに中性子の散乱・透過現象を利用した物性研究を行っています.

  1. 分子動力学による中性子冷減速材の散乱断面積の解析
  2. 各種中性子冷減速材の散乱断面積ライブラリの構築
  3. パスル・定常型冷中性子源の核的特性の解析・評価
  4. 超流動液体ヘリウムによる超冷中性子の高輝度生成

連絡先

桂キャンパス Cクラスター3棟 d2S08
TEL: 075-383-3913
FAX: 075-383-3913
E-mail: yutaka_abe@* (スパム対策のためメールアドレスを省略しております。@の後にはnucleng.kyoto-u.ac.jpを追加して下さい。)

研究テーマ・開発紹介

低被曝X線CTの開発

癌の早期発見のため,X線CTを健康診断に組み入れる事を将来の大きな目標としています.このためには,胸部レントゲン撮影の数10~1000倍程度のCT検査における被曝量を低減しなければなりません.我々は,従来,利用されていなかったX線のエネルギー情報を利用する事で,低被曝化を図っています.我々が提案したフィルタX線エネルギー差分法を用いると,(1) 白色X線を用いる場合と比較して,被曝量が1/3程度まで低減できる事,(2)加速電圧が高く,また被検体が大きい場合にヨウ素の吸収が観察しにくくなるビームハードニング効果を受けない測定ができる事,また,(3)電流測定法よりもエネルギー差分法の方が,ヨウ素に対するコントラストが約2倍大きい事,ができます.

一方で,ひとつひとつのX線のエネルギーを測定するには,時間が掛かり,実用的なCTとすることはできません.そこで,従来通り,X線を電流として測定しつつ,入射X線のエネルギー分布を得る事ができるtransXend検出器を開発しました.現在,解析法の研究,実証実験を行っています.

化合物半導体InSb検出器の開発

X線やガンマ線は電荷を持たない光子ですので,光子が放射線検出器に入射しても,検出器の母材と相互作用を起こさない事があります.上記のX線CTなどで,せっかく人体を通過して内部情報を持っているX線が,検出器で測定されないのでは,より多くのX線を人体に照射する事が必要となってしまい,結果として被曝量が大きくなります.このため,検出効率が高い放射線検出器を開発する事は,重要な研究課題です.また,X線やガンマ線をより高いエネルギー分解能で測定したい,という要求があります.このような要求に合うのが,化合物半導体InSbです.

我々は,現在の所,世界で唯一,InSbを用いた放射線検出器の開発を行っている研究室です.これまで,市販のInSbウエハを用いて検出器を製作してきましたが,最近は,結晶育生も行っています.これから,一段の飛躍をするところです.

中性子の科学技術および産業分野への応用

中性子はその名のとおり電荷を持たないので、原子と衝突しても原子核との相互作用が主で、電子の雲の広がりにかかわらず原子の位置が同定できます。また、軽い元素でも散乱されやすい、磁場との相互作用が強い、物質を通り抜ける能力が高い等の特徴があるため、産業・物性応用から基礎物理まで広い分野にわたって、X線を使っては測定できないデータを与えてくれます。

一口に中性子と言っても、そのエネルギーによって分類されますが、種々の分野への応用が進んでいるのは、そのうち比較的低い数10meV以下のエネルギーのものです。

この範囲でも大雑把に「熱中性子」「(極)冷中性子」「超冷中性子」に分類されます。熱中性子は、現状で最も広く利用されており、結晶構造解析のような基礎物性の分野から放射化分析・ラジオグラフィといった産業応用に近い分野まで用いられています。

冷中性子は、高分子、生体物質等の非常に大きな分子の構造・ダイナミックスの測定を得意とし、これから発展するであろう生命科学分野での利用が期待されます。

超冷中性子は、人間が走ったら追い越せるように遅い中性子で、その遅いという特徴を利用して中性子自体の素粒子的性質を調べる研究や観測問題のような量子力学の基本に関わるような研究に使われています。

本研究室では、このような低エネルギー中性子の生成とその利用についての研究をおこなっています。

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図-1 中性子の分類と主な応用分野

超流動ヘリウム、液体水素、固体メタンなどの分子動力学

中性子の散乱により物質のミクロ構造を解明し、新エネルギーや材料分野での新しい応用を目指しています。

特に、量子液体である超流動ヘリウムでのボーズ凝縮成分の励起の研究、液体水素の核スピン相関に伴う分子回転や分子並進運動の評価、そして液体及び固体メタン、軽水や重水の分子運動モデルの構築を進めています。

この成果は数値データファイルとして整備して、計算機ネットワークによる公開を進めています。

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図-2  水分子の水素結合などを考慮した動力学モデルと中性子散乱による解析

中性子のスピン干渉現象を応用した中性子スピンエコー分光器の開発

中性子は低速になると平面波としての性質をはっきりと示すようになります。そればかりでなく、中性子は2分の1のスピンを持ちますが、低速な中性子では、スピン状態の選別・スピンの反転といった操作も容易にできます。これを利用すると、通常は極めて精密な位置精度を要求する中性子の干渉をスピン状態による分波・重ね合わせという操作で、干渉が観測できるようになります。

この方法は、中性子のエネルギーを選ばない、干渉計はいくらでも大きくできるというユニークな手法で、物性への応用・基礎物理的実験が考えられています。このうち、物性への応用としては、高分子などの大きな構造によって中性子を散乱させ、散乱前後の中性子速度のわずかな変化をスピン干渉によって検出する中性子スピンエコー分光器というものを開発しています。

この種類の装置は原子炉では実現されていますが、中性子がパルス状に出てくる加速器中性子源ではまだ実現していません。

私たちのグループでは、この開発を進めており、その予備実験の結果を図-3に示します。分光器とするには分解能が足りませんが、この結果は世界初のパルス中性子源での中性子スピンエコーのデータです。

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図-3  世界初の加速器中性子源での中性子スピンエコーの結果。(Maruyama et al. )

物質科学研究用の加速器中性子源に関する研究開発

液体や固体などに対して、meV 程度の運動エネルギーを有する中性子はドブロイ波として振る舞うことから、その性質を利用すれば物質のミクロな構造と機能性を調べられます。こうした利用は高分子や生体分子系などの新しい対象へ広がりつつあります。

そこで、高輝度の低エネルギー中性子を生成して利用する研究が、大出力陽子加速器と核破砕中性子源の開発を目指して、日米欧で進行しています。

本研究室では、超冷中性子(0.1K程度)や冷中性子(20K程度)などの大強度生成について主に理論解析面より考察を進めています。

動的システムのゆらぎ信号解析と発電用原子炉の物理

20世紀初頭に発見された中性子は、核分裂反応による核エネルギーの利用(主に発電用)に大きな役割を果たしています。そこで、原子炉の物理と動特性をよりよく把握するために、炉心内中性子の集団的な振る舞いを、統計的な方法を用いて調べています。

特に、大型炉心の空間依存特性や高次の制御方法について基礎的な観点より研究を進めています。