重元素物性化学分野

アクチノイドの物性化学を探り、医薬への応用、安定化を目指す

アクチノイドの化学的物性は、5f電子に関するより重い元素になるほど顕著になる相対論的な振る舞いにより、結合に関与する軌道の変化により希土類から遷移金属までのハード・ソフト性の中で大きな変化を見せます。

遷移金属元素や希土類元素の化学に見られないこの5f電子の性質に基づくアクチノイドの物性化学自体も興味深いものの、このような性質が、近年では伝播性ガンへの適応のため放射性医薬品としてが研究される短寿命アクチノイド、福島事故の廃止措置に代表される超長期の放射性廃棄物に分類されるアクチノイド元素をどのように安定化するかに欠かせないものです。

このようにアクチノイド物性化学について、実験(電気化学、錯体化学、固体化学)、量子計算の両面から研究を進展させることを目指しています。

微量のアクチノイド化合物に対して放射光(Spring-8)、ICP-MSや電気化学、α線の利用で、先端的な研究を行います。

教員

山村 朝雄 ( Tomoo YAMAMURA )

教授(複合原子力科学研究所)

研究テーマ

アクチノイド物性化学の研究と、これに基づく核医薬アクチノイド錯体の研究と放射性廃棄物の安定化に関する研究

連絡先

複合原子力科学研究所 研究棟 2階204号室
TEL: 072-451-2442
E-mail: yamamura@* (スパム対策のためメールアドレスを省略しております。@の後にはrri.kyoto-u.ac.jpを追加して下さい。)

外山 真理(Mari TOYAMA)

助教(複合原子力科学研究所)

研究テーマ 

重元素錯体の合成・物性研究と、原子力・核医薬への応用

連絡先

複合原子力科学研究所 研究室棟 3階307号室
TEL: 072-451-2642
E-mail: toyama.mari.3p@*(@の後はkyoto-u.ac.jp)

 

研究テーマ・開発紹介

アクチノイド錯体の核医薬への応用

原子炉発電所の燃料として用いられるウランは、それが燃焼して生じる燃料のプルトニウムや、放射性廃棄物と考えられるネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどとともに、周期表では「アクチノイド」という系列にあります。皆様は、周期表の下に離れて、希土類とアクチノイドの系列が表示されていることで思い出される方もいるかもしれません。プルトニウムから後の元素は、人類が発見して80年に満たないため、様々な興味深い性質が眠っていて、今もその研究がされています。

アクチノイドの系列元素は15個ありますが、全てが放射性です。他方、磁石やレーザーに大活躍の希土類と負けず劣らず、変わった電子的性質があります。私たちは、このようなアクチノイドの興味深い物質を作ったり、調べたりすることで、利用していきたいと考えています。

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図1 アクチノイド錯体の核医薬への応用を目指したアクチノイド崩壊系列の利用・安定錯体の創出

具体的には、アクチノイドを含む色々な錯体を合成し(①, 図2, 図3)、その性質を研究します。このような研究は、例えば、アクチノイドの崩壊系列を利用する(②)ことにより、核医薬の研究に向けていくことができます(③)。最も有望なアクチノイド核種はAc-225で、山村は東北大時代に製造して供給していました。この成功例は2016年にドイツの病院で末期の転移性ガン患者がAc-225核医薬の投与で完治したことです(④)。

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図2 U(acac)4錯体                    図3 3価溶液

放射性廃棄物の管理に向けた酸化物生成

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図4 放射性廃棄物の管理に向けた酸化物生成とそのためのプローブ利用研究および理論計算

私たちはウランの様々な酸化状態を作り、また反応させることができます。高温や高圧の条件での反応も可能ですが、逆にどれだけマイルドな条件で反応を進めさせられるかに関心があります。私たちが開発した方法に、非常にマイルドな条件(水の沸点以下)で粒径等を制御しながらUO2を合成する方法があります(⑤)。

上述のように、放射性廃棄物と考えられている元素群(マイナーアクチノイド、MAなどと呼ばれます)は、そのまま使用済み燃料の中に含めておくと10万年、もし再処理を行って高レベル放射性廃棄物としてコンパクトに管理しようとしても1万年は管理が必要です。そこで核変換などの方法により寿命を短くできるかが世界中で研究されていますが、技術的課題の解決には時間を要しそうです。そこで、私たちは、⑤の方法をマイナーアクチノイドの処理に応用し(⑥)、核変換の方法が解決するまでの間は保管しておける方法の研究開発を進めています。

この全体を通じて、プローブ(放射光・NMR・中性子)を利用した物性研究(⑦)を通して、磁性と伝導性を併せ持った5f電子系錯体化合物・分子磁性体の物質開発を行います。

また、調べられた性質があり得るのかを計算により検討します(⑧)。実験的には得られない「現象が発生する理由」を説明できることが、理論計算の強みです。実験と理論の協奏により、アクチノイド物性化学を実質的に進展させます。