中性子応用光学分野

中性子スピン光学による基礎・応用研究

研究用原子炉や加速器中性子源によって発生する大強度の低速中性子を精密に制御し、中性子利用ならではの基礎物理的研究、物質科学研究のための新型中性子散乱装置の開発、中性子位相イメージング等による産業応用研究等を行っています。

中性子ビーム利用装置に必須な中性子反射光学素子に関して世界有数の開発拠点です。大阪府泉南郡熊取町にある研究用原子炉KUR、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARCや研究用原子炉JRR-3、カナダTRIUMFで独創的な装置開発を行いつつ、福井県敦賀市に建設予定の「もんじゅ」サイト新試験研究炉のより良い中性子利用の実現を目指しています。また中性子源開発や紫外線や放射線によって光るプラスチック開発等の中性子ビーム利用以外の開発研究も行っています。

 

教員

日野 正裕 ( Masahiro HINO )

教授(複合原子力科学研究所)

研究テーマ

中性子の「波」としての性質(光学的性質)を利用した中性子光学技術を高度化・展開することで、低速中性子の今までにない発見や利用方法の実現を目指しています。

主な担当講義

応用中性子工学

連絡先

熊取地区 複合原子力科学研究所 第2研究棟 II-319号室
TEL: 0724-51-2450
FAX: 0724-51-2635
E-mail: hino.masahiro.2x@* (スパム対策のためメールアドレスを省略しております。@の後にはkyoto-u.ac.jpを追加して下さい。)

中村 秀仁 ( Hidehiro NAKAMURA )

助教(複合原子力科学研究所)

研究テーマ

ポリエステルと放射線の相互作用に関する研究において、放射線活性によりポリエステルの分子構造を維持したまま、多様な機能を創出し、制御する可能性を検証しています。これを応用し、放射線から可視光に至る変換デバイスを開発しています。

連絡先

熊取地区 複合原子力科学研究所 第2研究棟 II-318号室
TEL: 0724-51-2463
FAX: 0724-51-2635
E-mail: nakamura.hidehito.3x@* (スパム対策のためメールアドレスを省略しております。@の後にはkyoto-u.ac.jpを追加して下さい。)

樋口 嵩 ( Takashi HIGUCHI )

助教(複合原子力科学研究所)

研究テーマ

ボトル(容器)に貯められる超冷中性子を大量に発生させ、強電場中での中性子スピン歳差周波数を超精密に計測することで、時間反転対称性を破る物理量である中性子の電気双極子モーメント(EDM)の探索を行います。これより素粒子標準模型を超える物理の探索を目指しています。

連絡先

熊取地区 複合原子力科学研究所 第2研究棟 II-318号室
TEL: 0724-51-2351
FAX: 0724-51-2635
E-mail: higuchi.takashi.8k@* (スパム対策のためメールアドレスを省略しております。@の後にはkyoto-u.ac.jpを追加して下さい。)

研究テーマ・開発紹介

中性子光学を用いた新型分光器開発・ビームライン

大阪府泉南郡熊取町にある研究用原子炉KUR(CN-3)の利用だけではなく、茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設J-PARC MLF BL06(VIN ROSE)や研究用原子炉JRR-3 C3-1-2(MINE)、カナダTRIUMFにおける超冷中性子による素粒子原子核実験等、特徴的な装置開発をして利用展開を行っています。

中性子は軽元素や磁性体に敏感であり、物質内部のナノ構造解析に力を発揮します。試料による中性子速度の変化に着目すると、静的構造だけでなく、動的な構造の情報も引き出せます。中性子スピンエコー法は、中性子のスピンを精密に制御することで、他の方法では見ることのできない時間・空間領域をカバーし、生体分子等のゆっくりとした動きも調べることができます。我々は中性子スピン干渉の原理と中性子スピンの精密制御技術を駆使して、世界的にユニークな中性子共鳴スピンエコー分光器(VIN ROSE)を京都大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)の連携の元、J-PARC MLF BL06に建設し、利用研究を開始しています。

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図-1 我々のグループが開発している中性子ビームライン

中性子光学素子開発と量子力学基礎

電気的に中性な特長のため中性子ビームを制御(曲げる)ことは大変難しい。そこで中性子が低速になるほど、物質「波」としての性質が顕著になることを利用して、世界最高レベルの多層膜中性子反射ミラーをはじめとする中性子光学素子を開発し、その応用研究を行っています。また低速中性子の平滑な物質との反射や透過は、単純な1次元シュレディンガー方程式を解くことで実験結果を美しく記述でき、時間を含む基礎量子力学の実験的検証等にも展開しています。近年は、理化学研究所やKEKと協力して、基板から開発することで今まで実現出来て無かった回転楕円体中性子スーパーミラーの実用に成功しています。

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図-2 成膜直後の回転楕円体中性子スーパーミラー

中性子光学技術の展開(新試験研究炉に向けて)

中性子は、強い透過力を持ち、かつX線ではコントラストのつきにくい物質内部の水の振る舞いや金属容器内の構造を3次元的に見ることが可能です。KUR(CN-3)では、通常の中性子吸収による透過像だけではなく、中性子小角散乱の情報も同時に捉えられる中性子位相イメージング装置を開発して、今後益々高度化が期待される金属積層造形物への応用研究を推進しています。

また中性子検出器開発だけでなく、紫外線や放射線によって光るプラスチックを開発し、安価で高感度の放射線検出器開発も目指しています。中性子光学技術をベースとした様々な研究開発を通じて、福井県敦賀市に建設予定の「もんじゅ」サイト新試験研究炉のような、これからの施設のより良い最先端中性子ビーム利用の実現を目指します。

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図-3 開発した発光プラスチック

超冷中性子を用いた素粒子物理学実験

運動エネルギー約300 neV未満の中性子は超冷中性子とよばれ、物質表面で全反射するため容器中に数100秒の間蓄積できる。この特長を活かして、様々な基礎物理実験に用いられているが、そのひとつが、中性子の電気双極子モーメントの測定である。非零の 中性子の電気双極子モーメントは時間反転対称性を破り、これは、標準模型の基礎的な仮定に基づくCPT(C;荷電変換、P: 空間反転, T:時間反転)定理によってCP対称性の破れと等価である。 中性子の電気双極子モーメント の高精度測定は、現在の素粒子物理学の最大の謎の一つである、反物資に対し物質優勢な宇宙の起源の解明のために重要であると同時に、標準模型を超えた理論の検証に極めて効果的である。我々は、日本・カナダ・米国の研究機関からなる、TRIUMF Ultracold Advanced Neutron (TUCAN) 国際共同研究の一員として、カナダ・バンクーバーのTRIUMFに世界最高強度の 超冷中性子源を開発している。これによって、これまでの測定のボトルネックであった超冷中性子強度を向上し、かつてない精度での 中性子の電気双極子モーメントの測定が可能になる。当研究室では、 国内外の施設を活用し、超冷中性子源開発と中性子の電気双極子モーメント測定実験の鍵となる実験要素の開発を進めている。